2012年7月8日日曜日

滋賀医大の非常勤講師デビューで学んだこと

7月から母校滋賀医科大学の非常勤講師デビューをしました

家庭医療の現場で働きながら、卒前教育に関わることは一つの目標だったので、
まさかこんなに早くその機会があるとは思いませんでした

沢山の縁に支えられての機会という事を、十分に感じるプロセスがあったので、
機会に感謝しながら活かしたいと思います

と、いうことで、その初回の報告です


今回は、先輩のM先生と一緒に考え準備した講義ではあったものの、
事例やファシリテートは全て先輩のM先生でした

時間割はこんな感じです
---
A9:00-9:15講師の自己紹介
ダイアログでの学び、学生さんも積極的でした
 9:15-9:30グループメンバーの自己紹介 
 
B9:30-Caseひとつめ提示
  9:45家族のnarrative
  9:55拡張質問
  10:05その後の経過
 10:15-10:25休憩
 
C10:25-Caseふたつめ提示
  10:40Driving Question
  10:50その後の経過
  10:55更なる拡張質問
  11:05その時の家庭医の思考・心境のプレゼン
 11:10-11:15休憩

D11:15-11:30まとめ
---


Aでは医師自身のキャリアとライフサイクルを述べ、参加学生のキャリアとライフサイクルも紹介してもらったことで雰囲気作り、場づくりに役立っただけでなく、今までの勤務先の紹介が後のCaseの臨床セッティングの紹介にもなっていました。グループが5名だったので『月曜日は誰や?』『じゃあ金曜日』と、笑っていいともの「お友達紹介」のノリになっていたのが流石でした。


Aで学生さん達からでた家庭医のイメージは
1st contact、馴染みの患者さんを診るかかりつけ、紹介能力、往診、生活も含めて診る医師、往診のイメージ、来てくれる肝ザさんが顔見知り、大きな病院の先生より優しくて・話を聞いて・人を長く見る、話を聞く・巻爪も切る、◎○医院でなく◎○さんと地域で呼ばれる
でした。講義の必要がないかも?とレベルの高い答えでしたが、イメージだけの部分もあり、これからここに家庭医の複数の事例と振り返りが加わるとどうなるか楽しみになりました。

Bの疾患は”Commonだけど大学であまり習わない未知の病気”でした。
ですので、その疫学や病態生理、発症のリスクなどを真っ白な状態でディスカッションできたことが非常に盛り上がりました。また知識として知っていても、目の前の患者さんのnarrativeに対して、その知識をどう活用するか?という臨床応用のいいトレーニングの場になっていました。


また合間合間に「●○と言われたら?」「□■に何ができるだろうか?」という問い場に出され、学生さん達がどんどんCaseに向き合う当事者になっていきました。


その後の経過の紹介や、その経過を踏まえてのCaseの振り返りでは、学生さんたちなりに『その結果は避けられなかったのか?』『でもその時の最善の判断をした』等と言う発言があり、それは医師が悩みながらも客観的にそして主観的に糧にするプロセスを辿っているようでした。

Cの疾患は”大学でよく習うけど、その臨床プレゼンテーションはほぼ未知の病気”でした。
患者さんの言葉から鑑別診断をあげ、その後それをSQに変えて再度鑑別診断、その整理のためにVINDICATE+Pを用いて整理、そして診断を伝え、症状や身体所見はYear Noteに沢山られつしてあるものこんな感じで臨床で出会うんだよ・・・という素晴らしいプレゼンでした。


そしてこの事例も合間合間に「●○したくない」という患者さんのnarrative、「□■してほしい」という家族のnarrative、それぞれのnarrativeが何故出てきたのかという推察プロセスと、実際の状況や背景の紹介がなされていました。


同時に医師の葛藤や苦悩、不安な気持ちなども同時に表現され、学生さん達も一緒になってその事例の最期を共に乗り越えるような時間になりました。


そして「患者さんが無くなった後に家族にできることは?」という問いからその後の経過と、関わりの紹介があり、最後にこの事例と一連の経過の振り返りをしました。


Dでは、”家庭医に必要な能力とは?なぜ必要か?”を学生それぞれが考え、発表してくれました。


・気づく力と気遣う力、それを臨床で磨く
 (毎日患者と付き合う中で、Criticalなイベントや些細な変化が起こるから)


・患者さんとそのご家族に寄りそう気持ちと、医師としての立場を区別して考える力
 (寄り添うだけなら医師でなくてもOKだけど、でも医師としての立場だけなら家庭医ではなく、その両方が必要だから)


・環境や状況を読み取る力
 (働くうえでは色んな事情があって、それが制約となって医学的な最善にならないかもしれないから)


・自分が働く地域に溶け込む力
 (地域の文化等を知ると見えてくる診れることがあるから)


・バランス力
 (医師としてと、人間としての両方の見方が必要だから)


・責任感。できること/できないことを、患者にとってのベストを考え、分別する力


・臨機応変力

感動です。講師陣も納得な上、予想以上の言語化が出てきて驚きました。

そして更に今回は、非常にいい教授法を学ぶことができました。
・患者さんとその疾患との出会いとその後までを紹介し、最後にその経過を振り返る
・患者さんとその疾患についての十分な背景情報と医学的知識を与えて議論する
・議論の途中に、実際の患者さんや家族からの質問、医師の自問自答を混ぜる
・医師自身の気づきや悩みや思いを同時にプレゼンする

つまり患者さんとその背景のプレゼン、家庭医自身の関わりとその内省のプレゼン(つまりポートフォリオ)は強烈な教育資源になることを再確認できました。

家庭医とは何ぞや~ということを理論で語らなくても、グループワークでの事例と振り返りでここまで行けるんですね・・・。


最後、学生さん達から『なんで先生方は家庭医になったのですか?』という質問や、『今までの大学の講義の中で一番楽しかった』『以前別の大学に行っていて、そこでのゼミの学び方が一番良かったので、医学部つまらないと思っていたが、そのゼミの様な学び方で非常によかった』という感想を貰うことができました。なんとも嬉しい報酬ですね。


M先生と学生さん達お疲れさまでした~。
再来週は私の番なので今回を見習って頑張りま~す。