2013年11月19日火曜日

タイの家庭医と一緒に家庭医療の卒前教育について語る

もう10日前のことですが、11月7日にタイからの医学教育の視察がありました。
家庭医療の卒前教育の『内容』と『伝え方』について大いに盛り上がりました。

今回の視察は、京都大学の医学教育センターからの依頼で、家庭医療教育のフィールドとしてあざいリハビリテーションクリニックに、タイの指導医が2名(外科医と家庭医、いずれもプログラム管理をしている指導医)お越しになり、家庭医療教育について交流するという貴重な機会になりました。

たった一日だけの交流でしたが、送迎の時の雑談・長浜市紹介から、
訪問診療中の交流、そしてランチと夕方のカンファレンスで濃密な学びの機会に!!

個人的な印象ですが、日本と比べて専門医制度の認定と試験の完成度が高く、またレジデンシーのローテーションの標準化がしっかりとなされていました。ただ一方でレジデンシーの母体が大学だったり、地方の病院だったりと多様だったことや、卒前での教育が大変という所は似ていて、夕方は、この「家庭医療の卒前教育」がメインです。

「魅力伝えるのが大変なんだよね~」
「そうそう!!」
「数を増やしたいんだけど人が増えないんだよね~」
「一緒一緒!!」
と言う感じで…かなり序盤は共感しつつ盛り上がりました。

まず『内容』についてですが、いくつかの文献を紹介しながら進みました。

・BPSモデルとホワイト研究は鉄板であること、
http://healtorture.hutman.net/files/files/englearticle.pdf
http://www.aafpfoundation.org/online/etc/medialib/found/documents/programs/chfm/whiteecologyofmedicalcare.Par.0001.File.dat/White_Ecology_of_Medical_Care.pdf
・理論としてのBPSの方法論(例:PCCMなど)があること
・学際的な用語が有効であること(例:病者役割From社会学)
http://en.wikipedia.org/wiki/Sick_role
などが話題になりました。
問診でもFIFEや影響を受けているのがMcWhinneyというのも当たり前!!って感じでした。

一番重要なのは、それらの『伝え方』!!と話題がうつりました
今までの経験をもとに、
・まずは導入の質問をつくる(Driving Question)
・概念を伝え、その後に概念の背景を伝え、そして物語る
・概念は少し伝え、反応を待ち、また少し伝える
・事例や例えなどイメージを用いる
などを話題にしました。

そして日常診療をすることが、教育向きの事例を準備することにつながる!!という話題になり、
これが結構Hitしていました。

タイの方が各大学に家庭医療学講座があり、専門医制度もしっかりしている体制にあるので、
卒前教育は日本の今だけでなく、未来の課題かもとも感じました。

追伸:内容については、以下も参考になります。
タイでも『「医学の不確実性」「複数の健康問題」大切だよね~』って感じでした。
http://www.hcfm.jp/journalclub/2013/10/000666.html
我々の課題は、いかにこれを上手に伝えるか?の挑戦とノウハウの共有ですね!!




2013年10月10日木曜日

里親学生さんとのセルポア

今週火曜日はセルポアという瀬田駅近くのオムライス屋さんで、
里親学生さん達(滋賀医大のメンター制度のメンティー)と夕食を食べました
水曜日の滋賀医大の講義前のこの時間は会食の定番時間になってきました


もちもとポテト団子の肉じゃが
しぐれ煮おむらいす
サムライロック

どれもこれも懐かしの定番メニューを飲み食べつつ、
新しく合う学生さん達とも語らうひと時になりました

セルポアは昔もっと小さいお店でアルプラの近くにあったのですが、学生時代の中ごろに移転して大きくなりました

その時と変わらない店構えで、厨房にはシェフのMさんの姿はなかったのですが、
それでも当時と同じお店でにぎわっていました


学生さん達との時間も非常に面白かったです
卒後9年ということは医学部1年生から見ると15年離れてるんですからね…
こっちは大学の後輩と言うことで親近感を持って話していますが、向こうから見ると遠いんでしょうね~(と気にしてもしょうがないので、気楽に話すようにしました)

里親制度は公式&マッチングのメンター制度なので基本上手くいきにくい制度です
自然なメンター・メンティーの関係にはもちろん及びません
なので肩ひじ張らず、まずは顔合わせをして、いろいろなきっかけ作りになればと思って接しました

最初は緊張していた学生さん達も色々お話してくれました
医師なった経緯や、最近の時間の過ごし方、大学のいろんな話、悩み事
どれもこれも勉強になるというか、違う世界を教えてもらえるというか、
貴重なことを教えてもらっているな~という時間になりました

こちらも自由に思ったこと、感じたことを話すようにしました
・鏡を見てのダンスの練習⇒自分を客観視すること
・へたくそでもダンスバトルに出ること(人に)みられることで上達すること⇒現場で学ぶことの大切さ
・好きな女優さんとその理由⇒演技、演じる中での個性
・思わぬ学外活動への参加と時間調整の大変さ⇒沢山の舞台を経験することの意味
・国境なき医師団への憧れ⇒災害医療・震災支援のときのロジスティック
などなど…

メンターとしてのキャリア的機能はまだまだの時間でしたが、
心理・社会機能としての「役割モデルの提示」や「受容と関心」は出来たかな

自分自身も学生時代や今を医学部の1-2年生に語り直すことで、
色々自己認識を深める機会になりました

これからどんな学生生活を送り、どんな成長や挫折を経験するのかはわかりませんが、
遠くで(時々近くで)見守って行きたい学生さん達でした

次回は縁ある高学年の人たちを誘って、何らかのケミストリーが起きたらと目論んでいます
場所はセルポアがいいな~やっぱり


2013年10月6日日曜日

施設での看取りの進化と出会う

昨年4月から密に関わっている施設では、
組織文化、看取り数の増加、そしてスタッフの思考錯誤などなどを背景に、
今年は看取りのケアが進化しています。

なんというか思いや気持ちがケアにつながっている感じ。
思いや気持ちはともすれば、いろいろな障害で形にならなかったり、ひとりで空回りしたり・・・
それが、目に見えてケアになっています。

看取りの時に主に使われる部屋があるのですが、それが毎回その人の家の個室になる感じ。
すごいな~と思って最近見ています。

というのも、回診時に自分のその部屋からもらう温もりで、パフォーマンスが変わるからです。

過去を知る展示があり、その人に接する際の敬意が湧いて来たり、
家族の写真から、大切な家族の一人だと再確認したり、
○○が好きだったんですね、○○が上手だったんですねと声をかけたり・・・

部屋自体が、良き看とりのアフォーダンスを生んでいるんです・・・



家庭医療のケアは「標準的な医療の個別化」という、矛盾にも聞こえる、ケアをすることだと思っています。
その施設でも、標準的な看取りのケアを究極に個別化していると感じました。

在宅ではその方の長年の住まい=その方らしい空間で看取るのですが、
看取りの時には、その施設の標準的な(老舗なので昔の)病室みたいな施設の部屋が、その方らしさに満ちた空間に設えられているのです。
その過程を想像し、その空間でのケアのやりとりを考えただけでも・・・。

その人の人生、生きてきた道のり、その人を見送る家族の思い、
それぞれに配慮し、斟酌し、出たり引いたり、工夫したり、でも反省して修正したり、
その揺れるケアの中で、豊かな時間が編まれ育まれている感じがしました。

在宅医療も行っていますが、亡くなる場所にベストはないと思っています。
在宅でも病院でも施設でも良いと思っています。

この施設には亡くなる場所のベストとなるエッセンスがあると思いました。
施設看とりが確実に増える時代に、この施設でのケアは一つの希望かもしれません。

間違いなく、人が人を支えることがより大切になる時代に、この施設で育つ人材がこれからの看取りを支える大切な一人ひとりになると感じました。

凄く勉強になる温かさを看取りの部屋から感じます。
燃え尽きず、継続できる温度で、この温かさが続いて欲しいです・・・。

2013年5月20日月曜日

いきいき健康フェスティバルに行ってきました、All 長浜!!って感じのチームが見えました

週末はこのいきいき健康フェスティバル2013に参加してきました

ブースは「まちのお医者さん」
本当は「いなかのお医者さん」なのですが…

長浜市と京都大学医学部大学院医学研究科が共同で行っている、0次健診をきっかけに立ちあがったNPO健康づくり0次クラブが主催しているお祭りです


思ったより派手!! フワフワで遊べたり、ロードトレインが走っていたり・・・
消防車や救急車の展示もあり、そして起振車まで来ました!!

うちの息子大興奮間違いなしです

10時から16時まで、医師会の4人の先生と交代しながらいろんな健康の相談に乗ることができました

「お医者さんかかっているけど、これで大丈夫?」
「これって受診したほうがいいよね?」
「これだと受診しなくてもいいよね?」
という相談が多かったです。普段の診療と違う語りが聞けて勉強になりました。

こうやって気軽に相談できる場もあると良いですよね。


あと保健師さんはじめ医療行政の皆さん、看護師会や歯科医師会の皆さん、検査技師さんたち、
リハビリのスタッフの皆さん、そして市立や日赤の先生方も休日返上で参加されており、
All Nagahama!! という印象の場になっていました。

このメンバーが日夜、市民の皆さんの医療について一生懸命汗をかいているんだな~
としみじみしました。

普段はこうやって一堂に会することは少ないのですが、フェスのお陰ですね
年々良い会になるといいな~(前夜祭や打ち上げで横の交流なども是非!)と思いました

2013年5月10日金曜日

恩師の最終講義

衣笠塾という塾に、大学2年生から卒業まで通っていました。
そこでは滋賀や京都の医学生等が集まり、医療についての様々なテーマで早川一光先生と座談会をするという場でした。

一年生の時の医学概論でその塾の師である早川先生とはお会いしていたのですが、
関わりが始まったのは、その一年後。「松井さん、早川先生の所に一緒に行きませんか?」と一年生のFさんが声をかけてくれたことがきっかけでした。

月一回土曜日の夜に衣笠までFさんのスカイラインに乗せてもらい、
元気について、命について、生き方について、死についてなどいまから思うと哲学的な話をしていたように記憶しています。

丁度美山診療所の立ち上げの時期でもあり、一緒に美山町のイベントに参加したり、
京都の他の開業医の先生との勉強会に参加したりもしていました。

その後FPIG関西の前身となった勉強会にもなりました。
懐かしや・・・。

その早川先生の医学概論が今年の4月18日で最後と言う連絡をもらいました。
可能であれば是非参加をとのことで、訪問診療のスケジュールを調整して参加してきました。

・誰か助けを求められたら「僕が行く!」という精神が重要
・医療者は手を大切に
・医の道、看護の道によく来た! 遠くから眺める富士は美しいが登ってみると岩場でジグザク、しかも医と看護の山には頂上がない
・医業はsymphoniesの時代
・医学を総合人間学(哲学文学音楽宗教)の中に組み込もう
・町衆の生活の中に医療がある
・命のはかなさ、一瞬だからこそ大切に
などなど、久しぶりの語りに「衣笠塾ってこんな感じだったな~」と当時を思い出しました。
家庭医を知る前の自分が、家庭医療という概念と出会った時の衝撃やキャリアへのあこがれは、
この語りや衣笠塾でのDiscussionで形成されてきた気がしました。

そしてサプライズ!
琵琶奏者の方を連れてこられ、「平家物語」と「雨にも負けず」が演奏されました
初めて琵琶演奏を聴きましたが講義室に響き渡る大迫力でした

演奏を聴いている早川先生からは、
何かを伝えたい、何かを届けたい。それは一人ひとり違ってもいいよ
でもこの音から命を、医療の本質を感じてほしいという佇まいを感じました

まさかの最終講義で寂しい気持ちもありましたが、
その場に居合わせることができ、また自分の持ち場でコツコツ頑張ろうという気持ちになりました





2013年4月3日水曜日

あざいでの一年目の振り返り

早いもので、あざいでの一年が経ちました

8年ぶりの地元、新米雇われ院長、慣れない組織文化、親友との共同経営など
大きな大きな挑戦の一年でした

北海道のキャッチフレーズに「試される大地」とあるのですが、
滋賀に帰ってきたこの一年こそが「試される湖!?」でした

家庭医として、そして個人として
初めてづくしの様々な役割や困難や出会いや機会があって
その一つ一つの内省と教訓から学び、
その一つ一つへの感謝と生かされている気持ちを味わいました


時には厳しく生々しく、そして手ごたえややりがいもあり・・・

家庭医療の実践者・指導医・研究者を目指してきたこれまでの7年間と、
この1年間では全く質の違う時間が流れていました

一人前の家庭医・指導医・経営者としての準備期がこれまでの7年間で、
昨年から家庭医・指導医・経営者としての本格的な活動期に入った気分です
節目を越えて立ち位置が激変したんだな~と思いました


まだまだ課題も挑戦も山積していますが、
少しずつ良い方向に向かっている実感もあり、
この4月からも丁寧に楽しく過ごしていきたいと思います

2013年1月20日日曜日

AwayがHomeになる良さ

今週はちょっとハード
経営面での課題がいくつか浮上し、抱えている困難事例も山場を迎えた週でした

そんな中、水曜日は午前の滋賀医大のいつもの講義だけでなく、
夜は病院と地域の緩和ケア・在宅医療にかかわる職種の皆さんが集う湖北緩和ケア・在宅医療研究会でWSを行ってきました

テーマは「退院前カンファレンス」
8職種のシナリオを作成して、ロールプレイとその振り返りを行いました

メッセージとしては、
・医療やケアが進化と同時に分断しつつあるからこそ統合と協働が必要
・チーム医療の概念を「院内から外のコミュニティ」に再定義する必要性
・そのための他者理解と尊重が大切
の3つで、ロールプレイを通して他者理解が進んだ時間でした

参加して下さったメンバーのアドリブと協力がなければ上手くいかなかったので感謝です


そして土曜日は一般医と精神科医との連携推進研修会で、
地域の開業医の先生方と精神科の先生方(5名!!)の前で事例のプレゼンをしました

プレゼンをいくつか区切り、途中途中でディスカッションするという学びの多い形式でした
色々Positiveなコメントも頂けて安堵
家庭医らしいContextual Careの事例だったので開業医の先生からも共感をもらえました~

今週は
・緩和医療や在宅医療に関わる多職種の場
・メンタルヘルスに関わる一般医と精神科医の集まる場
といずれも初めての舞台でAway感があり緊張もしましたが、いずれこの場がHomeになると良いだろうな~という感覚が得られました

普段働いている診療所だけで医療やケアは完結せず、
地理的な地域や人と人とのつながりの中で提供されると良いなと思いました
そのための土壌づくりのような時間だったかもしれません…

AwayをHomeにする
家庭医には必要な日々の取り組みかもしれません…

そう思うと滋賀医大の講義も大分Homeっぽくなってきました
来年度は4年生にも講義の枠をたくさん(6コマも!!)頂けたので頑張ります!!