2008年10月19日日曜日

その人を知るための大切な過去

今週は新しい職場の初日
本来5名体制が3名体制という思いがけず波乱の幕開けも加わり、
種々のテンポがつかめなかったと反省・・・

それでも、状態把握や課題整理、
冬期セミナーに向けての会議も大いに進められました

来週から加速します



さて、一昨日帰宅直後にふらっとつけたNHK
「その時歴史が動いた」で思いがけず涙しました


19歳という若さでアイヌの女性が、
「アイヌ神謡集」というアイヌ民謡の翻訳・編纂を行った物語でした

彼女の名前は知里幸恵

その原稿の校正を終えた日に、まさに命を燃やすように亡くなってしまったという突き刺さるエピソードもありました

そして何よりも、
自らのアイヌとしてのアイデンティティの再構築の過程が、
今まで大切にされてこなかったもの、見過ごされてきたものへの愛と自信に変わる姿がとても印象的でした


彼女の命を賭けた本は、その後アイヌ民族の復興と再評価への礎となったそうです
すごい19歳だと感じました


その後調べた、「アイヌ神謡集」の序文に感動しました

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 その昔この広い北海道は,私たちの先祖の自由の天地でありました.

 天真爛漫な稚児の様に,美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は,真に自然の寵児,なんという幸福な人だちであったでしょう.
 
冬の陸には林野をおおう深雪を蹴って,天地を凍らす寒気を物ともせず山又山をふみ越えて熊を狩り,夏の海には涼風泳ぐみどりの波,白い鴎の歌を友に木の葉の様な小舟を浮べてひねもす魚を漁り,花咲く春は軟らかな陽の光を浴びて,永久に囀《さえ》ずる小鳥と共に歌い暮して蕗《ふき》とり蓬《よもぎ》摘み,紅葉の秋は野分に穂揃うすすきをわけて,宵まで鮭とる篝《かがり》も消え,谷間に友呼ぶ鹿の音を外に,円《まど》かな月に夢を結ぶ.嗚呼なんという楽しい生活でしょう.

 平和の境,それも今は昔,夢は破れて幾十年,この地は急速な変転をなし,山野は村に,村は町にと次第々々に開けてゆく.
 
 太古ながらの自然の姿も何時の間にか影薄れて,野辺に山辺に嬉々として暮していた多くの民の行方も亦いずこ.

 僅かに残る私たち同族は,進みゆく世のさまにただ驚きの眼をみはるばかり.

 しかもその眼からは一挙一動宗教的感念に支配されていた昔の人の美しい魂の輝きは失われて,不安に充ち不平に燃え,鈍りくらんで行手も見わかず,よその御慈悲にすがらねばならぬ,あさましい姿,おお亡びゆくもの……それは今の私たちの名,なんという悲しい名前を私たちは持っているのでしょう.
 
 その昔,幸福な私たちの先祖は,自分のこの郷土が末にこうした惨めなありさまに変ろうなどとは,露ほども想像し得なかったのでありましょう.
 
 時は絶えず流れる,世は限りなく進展してゆく.

 激しい競争場裡に敗残の醜をさらしている今の私たちの中からも,いつかは,二人三人でも強いものが出て来たら,進みゆく世と歩をならべる日も,やがては来ましょう.それはほんとうに私たちの切なる望み,明暮《あけくれ》祈っている事で御座います.
 
 けれど……愛する私たちの先祖が起伏す日頃互いに意を通ずる為に用いた多くの言語,言い古し,残し伝えた多くの美しい言葉,それらのものもみんな果敢なく,亡びゆく弱きものと共に消失せてしまうのでしょうか.おおそれはあまりにいたましい名残惜しい事で御座います.
 
 アイヌに生れアイヌ語の中に生いたった私は,雨の宵,雪の夜,暇ある毎に打集って私たちの先祖が語り興じたいろいろな物語の中極く小さな話の一つ二つを拙ない筆に書連ねました.
 
 私たちを知って下さる多くの方に読んでいただく事が出来ますならば,私は,私たちの同族祖先と共にほんとうに無限の喜び,無上の幸福に存じます.

 大正十一年三月一日 知里幸惠

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 やっぱり、すごい19歳です

 
 番組を見ていて、自分は過去の大切なものを忘れて生きているんだな…と感じました

 
 ノスタルジーや温故知新といってしまえば、それまでなのですが、
数年前、数ヶ月前、数日前に感じた複数のものとオーバーラップしました

 ひとつは、西洋医学の限界から興った、医学における人間性の回復をひとつのコアとしている家庭医療を学びながら感じていること

 そして、「学習する組織」「システムシンキング」などで最近は読み進めているピータ・センゲの最近の著書『出現する未来』でも述べられた、現代を新しく生きるための“仏教的”思考で思ったこと

 最近では、実家に帰って、自分を構成してきた過去と再会する日々を過ごして体感したこと


 それら、全てが、(のぼせない程度に)
「大切な過去を思い出す」ことの大切さを教えてくれました

 今日の番組はとどめですね・・・


 過去を振り返らない、前だけ向いて進むとき。
人は大切なことを忘れて、しまっているのかもしれません

 辛い過去も引き連れて生きるときこそ、
過去の辛さが幸せとなって自分を有るときから支えてくれるのかもしれません


 「大切な過去を思い出す」を大切にしたいです

それは、自分も、相手も同じで・・・