2012年6月27日水曜日

家庭医療の基礎を学生さん達が考えた3時間の報告

*今回長いです

最後のまとめの時に、京府医3年生のK君がホワイトボードに書いてくれた「家庭医療とは」の図(一部改編)


週末は関西医大で学生・研修医部会関西支部の勉強会の講師でした
この勉強会はシリーズで計画されており、その第一回でした

イントロではまず、
「!?-?=!」という場にしましょうというモチーフを提示しました

*「!?」(なんだそれは!?)から「?」(疑問・質問を通して)を引いて「!」(なるほど~)が生まれる時間

このモチーフは、参加者や私自身の「!?」を表現しやすく、その後の質問や疑問「?」を出すのにいい準備になりました。


そのあと、学生さんのレディネスを確認
・家庭医を見た学生数名、見ていない学生約20名
・家庭医療を聞いたことがある学生さんと聞いたことが無い学生さんは半々でした

思ったよりも聞いたことがない学生さんが多かったのですが、
「今日の話は、見て聞いた学生さんから見ても聞いてもいない学生さんの間に届けます」という意識が出来ました。自分の中で宛先をぐっと意識することができました。

その後スモールグループディスカッション(以下SGD)で、グループのルールや今日の約束を相談してもらいました
・学生の実習と家庭医療の理論を繋げたい・同じ興味を持つ学生のつながりをつくりたい・聞くだけでなく、参加する・知るだけでなく、行動に繋がるように学ぶ・イメージを具体化させる・横のつながりをつくる・遠慮なし・楽しむ
などが、出てきました。
どのグループも楽しそう。
一気にグループ内での関係が深まっているなと感じました。

それぞれを全体で出してもらい、講師からもコメント
横のつながりを大切にしたい、が複数出たことを歓迎して確認しました

そして講師からも以下のルールを提示しました
・皆、対等
・知ることを楽しみましょう
・互いに助け合いましょう
・時間とって考えましょう
・聞いて、気づいたら、語りましょう

そして、いよいよ本題へ。
「家庭医とは?」を周囲から尋ねられた医学生さんを聞いた所、数名!!

(T_T)これは予想していませんでした。だってタイトルが「家庭医療の伝え方」だったので・・

その数名の医学生さんの体験を聞きました
家族や友人に尋ねられて、でも説明にしてもピンと来てもらえなかったと説明

ここは予想通りの流れで、
「なんで説明するのが難しいのか?」と全体に問いつつ、


「タイヤをタイヤという言葉を使わず説明する」
「自転車に乗っている状態を自転車という語句を使わずに説明する」
というワークを行いました。これはもう罰ゲームですよね、ごめん。

皆、奮闘してくれましたが、頭に描いているものを説明する難しさを体験してくれ、
これが家庭医療の説明の難しさに似ているという事をお話ししました

特に家庭医療学が実践知の側面を持つという話をしたあと、
自転車のワーク中に準備したレクチャーをしました


レクチャーでは、学問としての哲学研究と歴史研究の重要性について触れ、
医師の役割(価値、方法、限界)、社会の現状(文化歴史的背景)についてSGDをしました。

これがすごく面白かったです。

<医師の役割>
 病気を治す、診断してその診断が患者さんのものになるように診断に伴う痛みや悩みにつきあう、医療サービスの提供者、気軽に知恵(=健康のアドバイス)を渡す、患者さんの状態を移す鏡(=患者さんの状態を理解するための比喩)、患者さんに知識と意識を与える、住民の健康づくり、子供たちに身近でない死を身近なものにする・タブーに向き合わせる(これには反対意見あり)、間違った健康情報をただす、診断・治療・予防・教育・支援、緩和ケアする、治すのではなく患者さんの幸せのために働く、本人の望む人生に近づける、知識面をサポートし情報格差があっても同じ医療水準を確保する・・・・

<社会の状況>
 人間関係が希薄、みんな忙しい、多様性、核家族化と孤立化、情報格差、医療がサービス業に、地域の医師の偏在、医師はそもそも会いたくない存在、患者さんのニーズが多様、生活水準の向上、選択肢が多い、介護保険と言うシステムに依存、地方経済の低迷、都市と田舎の格差・・・・

などが出てきました。
参加者の皆さんの発言、そしてグループ発表毎に全体との対話を行い、
「!?」という発言を「!」にしてもらうためにやり取りしたり、
新しい質問が出た時に、それを全体で取り扱ったりしました

ちょっと難しかった質問が「家庭医と総合内科との違いは?」でした。
家庭医と総合診療は働く場所以外の違いはあまりないので、Family MedicineとGeneral Internal Medicineの違いとして以下の事をのべました。

医師の役割として診断と治療があるけど、これがFMとGIMでどう違うか・・

診断:
・GIMは診断学や臨床推論で包括的な内科の知識に基づいた生物医学的な診断(特に診断困難例で力を発揮)
・FMは生物医学的な診断と、心の動きや病いの診断(診立て)、その人の環境やネットワークの診断(診立て)

治療:
・GIMは、複数の疾患を抱えた際の優先付け、標準化された生物医学的治療
・FMは、生物医学的な個別ケア、心の動きや病いへの個別ケア、その人の環境やネットワークへの個別ケア(いろんな医療資源・社会資源を活用・コラボして行う)

またフィールドとしてはGIMは主に病院、FMは主に診療所、またその地域で担っている医療機関としての役割にも影響されうると説明しました


「じゃあ、働く医療機関の大きさや、地域で専門性が変わるのですか?」という素晴らしい質問がでたので、家庭医の専門性の基盤には

(同じ地域でずっと診る)継続性
×
(まず最初に診るからこその)包括性
×
(できないことがあるからこその)協調性
の3本柱の両立があると説明しました。

救急は包括性と協調性があるが継続性がすくない
外科は継続性と協調性があるが、包括性がすくない
などなど他科との比較で分かりやすくお伝えしました

ここは皆さんストンと分かってもらえたのかなという反応でした


そして、最後のSGDのテーマを出しました
「じゃあ、皆さん家庭医とは何か?と聞かれたらどう答えますか?」


・最初に患者と向き合う医師(人ではなく専門職としての医師、患者にとっての存在感)
・地域に関わり、働く場所によってやることが違う
・地域の皆(の人生)が対象で、「うちの科ではない」と言わない
・社会に違和感なく溶け込む存在
・体だけでなく、その人の環境・社会・人生を踏まえて治療する存在
・癒者(いしゃ)
・多職種の中でリーダーシップをとる存在
・限界があるので連携をとる、でも患者さんが最後に帰ってくる
・最初にかかる医師、患者のニーズを定型化しケアする
・長く深く付き合う医師(広く浅く診るんだけど)


すごく的確に家庭医像が捉えられていて、結構感動の時間でした

また「図にするとこんな感じだと思うんですが・・・」と冒頭の図が飛びだしたのもこの瞬間です
(これは的確な図でびっくり)

最後に出席して頂いた家庭医の先生方から学生さんに拍手を貰って終了しました

・・・
たった3時間で、しかも

・家庭医を見た学生数名、見ていない学生約20名
・家庭医療を聞いたことがある学生さんと聞いたことが無い学生さんと半々

という中、この答えが出るってすごいな~と思いました

実は3時間をほぼアドリブですることには不安があったのですが、学生さんと自分の資源、そしてSGDと対話の力を信じてやってみて良かったです


参加して下さった学生の皆、サポート頂いた関西の家庭医の先生方ありがとうございました!!

0 件のコメント: